取材:編集部
2015年11月に幕張メッセのイベントホールで行われた「Inter BEE 2015」の目玉イベント「ラインアレイスピーカ一体験デモ」。L-Acoustics、JBL、Meyer Soundなどの並みいる老舗ラインアレイスピーカーに勝るとも劣らない「美しい」音色を聞かせていたのが、VUE audiotechnik(以下、VUE)のal-8 / hs28だった。まるで巨大なスタジオ・モニタ一を聞いているような気がしたものである。
そのVUE製品の輸入代理業務が、この4月から当協会の賛助会員でもある「日本エレクトロ・ハーモニックス株式会社」に移行した。それを記念して同社が4月18日(木)に東京・中野の野方区民ホールで製品展示・試聴体験会を開催したので、その模様をレポートしたい。
4月18日(木) 野⽅区⺠ホールにて開催された日本エレクトロ・ハーモニックス(株)主催のVUE Audiotechnik(ヴューオーディオテクニック)の展示・試聴会をレポートします。
VUE Audiotechnik社はカリフォルニア州サンディエゴに本社を置くプロオーディオメーカーです。
EAWの共同設⽴者でありCEOを務めたKen Berger(ケン・バーガー)と、Apogee Sound のマネージメントを経てMeyer Sound Labs GmbH のCEOを務めたJim Sides(ジム・サイズ)を中心に、プロオーディオ業界の名だたる人物が集結して2012年に誕⽣しました。
特徴としてダイアフラムにべリリウムを使用し、ウーファーにはケプラーコーンを採用、ドライバーはネオジム磁石でドライブするDSP専用アンプや⾦具、ケースまで用意されています。
驚いたのは本社はアメリカですがR&Dセンターはドイツにあり、クロスオーバーやドライバーがドイツ製、エンクロージャーはロシア製、DSPパワーアンプはデンマーク製でアッセンブリーは中国で⾏われているとのこと。まさにワールドワイド製品です。
写真の左はAPAC(Asia-Pacific)セールスのJoe Manning(ジョー・マンニング)さん、右はAPACテクニカルサポートのTony Sawyer(トニー・ソーヤ)さんで元EVI Audioとのことでした。
主に製品はラインアレイシステムのal-Class、主にパワードのポイントソースシステムh-Class。
パッシブポイントソースシステム a-Class、商業施設向けポイントソースシステム i-Class、劇場やテーマパーク向け小型ポイントソースシステム e-Class、これらを鳴らすDSPパワーアンプ VUE-Driveから構成されます。
ステージにスタンド⽴てされたスモールクラスDual 4″の2Way ラインアレイ al-4 とSingle Dual 15″のal-4SB サブウーファー。
写真の右にスタックされているミドルクラスDual 8″の3Way ラインアレイ al-8 とSingle 18″のal-8SB サブウーファー
当日は展示されていなかったがラージクラスDual 12″の3Way ラインアレイ al-12 とDual 18″のal-12SB サブウーファーもラインナップされています。
DSPパワーアンプは通常の2U/4chだけでなくでラインアレイスピーカーに合わせて異なる出⼒の3chパワーアンプや6chパワーアンプが用意され、少ない消費電⼒で効率よく鳴らすことができます。全てのパワーアンプがマルチボルテージで100V対応していました。
⼊⼒はDante にも対応し、7.7kg〜11.45kgと軽量です。
こちらはミドルクラス3Wayラインアレイal-8のグリルを外した様子。真ん中がスモールクラスal-4を倍にしたものでスモールからラージまで同じユニット構成で統一されており一緒にフライングすることもできるそうです。
ポイントソースシステムはアクティブのh-Class とパッシブのa-Class をラインナップ。用途に応じて選択することができます。
ロビーでは設備用ポイントソースシステム e-Classが展示、試聴できるようになっていました。
e-352b はDual 3.5″のパワフルなポイントソーススピーカーになります。
最小モデル同軸3.5″のe351は取付⾦具で壁へ取り付けることができます。
ステージにはラインアレイとポイントソースがセッティングされ、e-Class とa-Class の製品紹介とライブ演奏が⾏われていました。
VUE audiotechnik社はアメリカ カリフォルニア州サンディエゴに本拠を置く2012年創業の若いプロオーディオメーカーです。そのルーツをEAW、JBL、QSCなどのメジャーブランドに持ち、大型のライン・アレイシステムから小規模PA向け、更には設備音響向けのスピーカーシステムをラインナップしています。
VUEのライン・アレイシステムは現在、ジャネット・ジャクソンや今年、グラミー賞の「最優秀ラップ・パフォーマンス賞」を受賞したケンドリック・ラマー、グラディスナイト&ザ・ピップスなどのツアーで活躍しています。
VUE audiotechnik社のスタッフは、この業界の名だたるブランドに在籍した経歴を持つ人々で構成されています。CEOのケン・バーガーはEAWの共同創設者のひとりでCEOを務めていました。 デザインチーフのマイケル・アダムスは、JBLのVERTEシリーズやQSCのWideLineシリーズで重要な役割を果たしてきました。過去に素晴らしい仕事をした人々が結集してVUE audiotechnik社が創設されました。
その製品の最大のセールスポイントは、高域ドライバーのダイヤフラムにベリリウム金属を採用したことです。 従来、高域システムに使用されていたのは、アルミやチタンのダイヤフラムでした。高域のダイヤフラムには、軽量、柔軟、強じんな特性の金属が必要です。
金属ダイヤフラムは、まず初めにアルミで開発されましたが、ご存知のように、アルミは軽く加工しやすいのですが、強度はありません。スピーカーシステムがハイパワー化されるにしたがって、より強靭な金属が必要になり、チタンなどの金属が採用されるようになりました。チタンは加工はしやすいのですが、アルミよりもかなり重い材質です。
そこでVUEではベリリウムを採用しました。アルミの重さを「1」とした場合、チタンは「2」、ベリリウムは「0.7」となります。ベリリウムの特徴は、ひとつには他の金属に比べて高域特性が優れている事。とりわけ伸びの良さと、はっきりしたディテールの表現が出来ると言う点がベリリウムの大きなポイントとなります。さらに他の金属のダイヤフラムに比べて歪率が低いと言う事が、第2のポイントです。アルミ、チタン、ベリリウム、それぞれの金属で音叉を作った場合、音の伸び(伝導率)は、ベリリウムがアルミ、チタンのおよそ2.5倍となります。
ベリリウムは、軽く、強靭な金属ですが、加工のむずかしい金属です。加工の際に発生する粉塵が人体に影響を及ぼす恐れがあるからです。しかし近年、加工技術の研究がなされ、ベリリウム・ダイヤフラムが現実のものとなってきました。そこには、Materion Electrofusion社の貢献があります。 VUE audiotechnik社は、Materion Electrofusion社とパートナーシップを結び、製造コストを削減しながらベリリウムの利点を活かしたダイヤフラムをal-Class、h-Class、e-Classのシステムに採用しています。
VUE audiotechnikのラインナップは、ラインアレイシステムのal-Class、ハイクオリティパワードシステムのh-Class,アドバンス・パッシブシステムのa-Class、次世代のハイクオリティ・コマーシャルオーディオシステムのe-Class、コンパクトなi-Class。これらをドライブする専用アンプのVUE Driveで構成されています。
ラインアレイシステムのal-Classにはコンパクトなal-4とスタンダードサイズのal-8、さらにラージサイズのal-12の3タイプがあり、いずれのタイプにもベリリウムHFダイアフラムが採用されています。そして、それぞれにフライング可能なサブウーファーが用意されています。
VUE audiotechnikのラインアレイシステムの特徴は、Continuous Source Topology(CST™)によって、すべてのal-Classシステムと連携したパフォーマンスとコントロールが容易に構築出来るよう設計されている事です。
al-12、al-8、al-4を同じリギングにフライングした場合、システムを正面から見るとHFユニット、MFユニットを縦に一列で見ることが出来ます。各ユニットの配置、更にVUEポイント・ビームステアリングの活用によって、音響現場での設営が短時間で最適な環境を作ることが出来ます。
2 × 4インチLF、1×1インチHF、2-wayのal-4は非常にコンパクトで、4本までならば既成のスピーカースタンドにマウントすることが出来ます。専用のサブウーファーは、2 × 15インチシステムにも関わらずw480mm × h520mm × d500mmのエンクロージャーに収まっています。ディスタンスロッドを使ってのマウントもグランドスタックも可能です。
通常ならばシングル15インチのエンクロージャーに15インチ2本のユニットが搭載されてしまうのは、VUEのADVANCED ISOBARIC DESIGNによるものです。
al-4SBを正面からみると、不思議な事にユニットのマグネットが見えます。これは、2つの15インチユニットを向かい合わせに配置して、見かけ上2倍の力を持つひとつのユニットとして機能させるISOBARIC DESIGNの1形態を進化させたVENTED CONE TO CONEを採用しているからです。これにより、al-4SBでは、デュアル15インチ・システムでありながら、通常よりも小さなエンクロージャーで、45Hzまでの低域を安定して供給出来る設計となっています。このal-4システムをドライブするのは、VUEDriveエンジン V4です。V4はal-4システムとh-Classのモニターシステムの専用として設計されています。
al-8は、2 × 8インチLF、4 × 4インチMF、2 × 1インチHF、3-wayのミドルクラスシステムで、専用のサブウーファーはシングル18インチです。al-8をドライブするのは専用エンジンV6です。
al-12はラージサイズのラインアレイシステムで、かつ最新のシステムです。VUEは小型のシステムから作り始めて大型のシステムへ移行していきました。その為、Continuous Source Topology(CST™)の設計はしやすかったのではないでしょか。
al-12は、2 × 12インチLF、6 × 4インチMF、2 × 1.4インチHFの3-wayで、専用のサブウーファーは2 × 18インチです。al-12は専用エンジンV3でドライブします。
al-12は2017年8月からサウンド・エンジニアのカイル・ハミルトン氏によってケンドリック・ラマーの大規模ツァーで使用されました。更に2019年の新規ツァーからはジャネット・ジャクソンのツァーでもVUEの使用が決定しています。
h-classはポイントソースタイプのスピーカーです。2 × 5インチからシングル15インチまで7タイプのフルレンジ・パワードシステムと、4タイプのパワード・サブウーファー、4タイプのモニターシステムがラインナップされています。
いずれHFユニットにはベリリウム・ダイアフラムを搭載してal-Class同様、高い出力性能とアルミやチタンにはない、歪の無い高帯域周波数性能を特徴としています。
サブウーファーは、ACTIVE COMPLIANCE MANAGEMENT(ACM™)デザインが採用されました。小さなエンクロージャーながら歪の少ない高音圧を出力する為に、2本のユニットが共通のベントチャンバーを共有するという、バスレフ方式とバンドパス方式を合体させたハイブリッド方式です。このシステムを完璧に動作させるため、DSP内蔵アンプが配置されています。カイル・ハミルトン氏はACM™を採用したhs-221をal-12ラインアレイシステムのサブウーファーとして採用しています。
h-Classのもうひとつの重要なアイテムはモニターシステムです。
12インチと15インチのシングルタイプと2 × 12インチの少し大きなタイプ。いずれもベリリウムHFユニット搭載で、ハイパワーでドライブしても歪が無く解像度の高いサウンドを提供してくれます。これらのモニターシステムはal-4システムと同じV4エンジンでドライブします。
モニターシステムにはもうひとつ、シングル8インチのパワードモニターも用意されています。
al-Classとh-Classの全てのシステムはSystem VUEネットワークシステムで制御と監視が出来ます。有線、ワイヤレスのイーサネット接続に対応しており、WindowsとMacintosh OSX、iOSで使用出来ます。
入力レベル、音量、ミュート、ディレイ、EQ、入力ソースの制御を単一またはグループ単位でコントロール出来ます。
a-Classはパッシブなポイントソースシステムです。専用エンジンを必要としないので、汎用性の高いシステムです。8インチから15インチまでのシステムがあり、転がしてモニターとしての使用も出来るよう5角形のエンクロージャー設計となっています。
a-Classのサブウーファーはシングル15インチ、2 × 15インチ、4 × 18インチの3タイプがあり、4 × 18インチのas-418は、al-4SBと同じADVANCED ISOBARIC DESIGNで設計され、とてもコンパクトな設計となっています。
e-Classは近未来を意識した設備系システムです。従来の設備スピーカーは音質の面でどうしても他のシステムに見劣りしてしまっていました。しかしVUE e-ClassはベリリウムHFユニットを採用し、サブウーファーにはACM™デザインを採用することにより、次世代設備オーディオを現実のものとしました。
単なる設備音響では不足と考えるアート系展覧会場やハイクラスエリア、4Kに代表される高精細映像とのコラボレーションなど、新しい空間デザインのサウンド・システムとして提案出来るシステムです。
i-Classは、プロフェッショナルグレードのウーファーとシルクドームツィーターを使い、他社の同グレードシステムがプラスチックなどの樹脂を使用したエンクロージャーであるのに対し、敢えて頑丈な木製のエンクロージャーを採用して高品質な音響性能を提供する近距離音場用システムです。フルレンジシステムには可変式のヨークとU型取付金具が標準で装備されコーナーや平らな面への取付が可能です。専用のサブウーファーを追加して、より広い空間にも対応出来ます。
VUE audiotechnikは、創立からまだ10年にも満たない若いブランドです。VUEを知らない人たちは、まだたくさんいます。そんな人達にVUEを知ってもらいたいと思います。そして、日本国内にいるVUEユーザーの皆さんに仲間を作りたいと考えます。ユーザーとして情報を交換しあい、助け合えるコミュニティが出来る事を願っています。